MENU

臨床での活用漢方で治そう

一覧ページに戻る

めまいと耳鳴りの漢方治療

めまいと耳鳴りの漢方治療

 めまいの診療の際に用いられる口訣として「天井グルグル沢瀉湯」があります。これは突然周囲がぐるぐる回り吐き気や耳鳴りを伴う回転性のめまい(vertigo)に沢瀉湯を使用するとよいということです。一方、急に立ち上がったり、ある方向を振り向いたりしたときにクラッとするようなめまいは浮動感(dizziness)といいます。患者様は雲の上を歩く感じだとか水に浮いている船に乗っているようだと表現します。口訣では「雲の上フワフワ真武湯」といい、このような浮動感のときには真武湯が適応します。
 これらは問診をする際の一つの目安になりますが、ここではもう少し詳しく、気血水の面からめまいと耳鳴りの原因について考えてみたいと思います。

めまいイラスト

処方の実際

「水」を整える処方

 漢方処方において、めまいは主に「水」が原因で起こると考えています。身体の代謝しきれない余分な水が、頭部で脳脊髄液や耳の内リンパ液の循環に影響をおよぼすことによって、めまいや耳鳴りを引き起こすという考えかたです。「水」が原因のめまいでは、めまいのほかに頭痛、むくみ、小便の異常、下痢なども水分の代謝異常として起こることがあります。また胃内停水を伴う場合には胃腸障害を認めることがあります。このような病態では身体の余分な水を汗や尿として体外に排出する漢方薬(利水剤)を使用します。
 代表的な利水剤を以下に示します。

  1. 1. 真武湯
    新陳代謝が衰え水分が胃腸に停滞し、めまいのほか尿不利、腹痛、下痢、動悸などの症状がある場合で、浮動感があるめまいに用いる。
  2. 2. 苓桂朮甘湯
    立ちくらみのような浮動感や耳鳴りのような耳の症状を伴うめまいに用いる。
  3. 3. 沢瀉湯
    メニエール病などの回転性のめまいに用いる。
  4. 4. 半夏白朮天麻湯
    胃腸障害や胃下垂、胃アトニーなどのある体質のめまいに用いる。
  5. 5. 五苓散料
    代表的な利水剤で天候に関係するめまいに用いる。四物湯と合方するとよい。
「血」を整える処方

 「血」が原因のめまいの原因としては瘀血と血虚が考えられます。瘀血とは正常の血流量が増加したとき(充血)で血の上衝でのぼせを伴い、一方、血虚は正常よりも血流量が減少したとき(貧血)で冷え性の人のめまいが相当します。ただし、瘀血と血虚を厳密に区別するのは難しい場合には他の身体所見も併せて判断します。

  1. 1. 黄連解毒湯
    炎症と充血のために顔色が赤くのぼせのあるめまい。更年期障害のときののぼせにも用いられ、気分がイライラして落着かないものに効果がある。
  2. 2. 桂枝茯苓丸料
    瘀血の代表で婦人科的異常やその他の瘀血を認めるときのめまいに用いる。
  3. 3. 釣藤散
    めまいのほか頭痛、肩から背にかけてのひきつれるような痛み、眼球結膜の充血がある場合。脳内の血液循環の改善をする。耳鳴りにも効果が認められる。
  4. 4. 四物湯
    血虚の代表的な処方であるが、単独よりも合方で用いることが多い(下記参照)
「水」と「血」を整える

 「水」と「血」の両方が混在する、あるいは区別ができない場合もあります。このときには両者の処方を合方するとうまくいくことがあります。

  1. 1. 当帰芍薬散料
    水滞と血虚の症状を認めるときに用いる。全身に冷えを認める女性に多く使われる。
  2. 2. 苓桂朮甘湯合四物湯(連珠飲)
    水滞と血虚の症状を認め、動悸やめまいがある場合に用いられる。
  3. 3. 五苓散合四物湯
    連珠飲と同様な組合せで、合方により当帰芍薬散に桂枝、猪苓、地黄を追加した構成になっている。めまいや耳鳴りのみならず頭痛に著効する。

 上記の考えでめまいや耳鳴りが改善しない場合には「頸椎のズレ」が存在します。骨盤のズレが腰椎のズレ、さらに頸椎のズレになっていきます。特に女性の場合は骨盤のズレを認める傾向が多いようです。
 問診では交通事故などで身体に外力が加わったことがないかを聞くことが大事です。あるいは脊椎のレントゲンがあれば必ずチェックをしてズレの有無を確認する必要があるといえるでしょう。この脊椎のズレを改善しない限り根本的な治療にはならないからです。