臨床での活用漢方で治そう
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生活習慣病の漢方治療
生活習慣病の漢方治療
近年メタボリックシンドロームという言葉が注目を集めています。これは肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧症の複合病態を意味し、それぞれの病態は軽度であっても集積して存在すると生活習慣病としての危険性が高まるというもので、ときに重篤な合併状態を引き起こし、死に至る場合もあります。一方でメタボリックシンドロームは可逆性疾患の一面もあり、早期からの介入治療により予後を大幅に改善しうる可能性が期待できます。そのため、判定基準によりメタボリックシンドロームを判定し、それぞれの病態がまだ確定される前の段階(=未病)で介入治療を開始することができれば、動脈硬化性疾患へ発展する危険性は大幅に減少するでしょう。この考えは当に漢方の「未病を治す」に通じるものがあります。
メタボリックシンドロームへの対処としては、まず食事療法、運動療法、良質な睡眠とストレスの軽減を目的とした生活指導が基本になりますが、この段階での漢方薬の使用は肥満の改善を目的とします。次いで肥満、糖代謝異常、脂質代謝異常、高血圧はいずれも心血管障害の危険因子であることから、駆瘀血剤を使用した循環障害の改善も必要となります。
処方の実際
肥満の改善として
大柴胡湯、防風通聖散、桃核承気湯 は肥満及びそれに伴う生活習慣病を伴う中高年層に効果的です。また、女性に多い水分代謝の不良が原因の肥満には防己黄耆湯が効果的です。
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- 1. 大柴胡湯
- おもに男性の肥満に用いられ、元来骨太・筋肉質の人が、ストレスで飲食過多となり腹が出て固太り、内臓脂肪が多い、ストレスを伴う肥満から高血圧や高脂血症、動脈硬化など生活習慣病を伴う場合に用いられます。
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- 2. 防風通聖散
- 男女を問わない肥満で脂肪太りや腹がポッコリでる太鼓腹で皮下脂肪が多く、旺盛な食欲による肥満に用いられます。薬理学的にも熱産生促進作用、抗肥満作用、排便促進作用などが認められています。排便促進作用により常用量では下痢や軟便になることがあるため、服用量は適宜調整する必要があります。
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- 3. 桃核承気湯
- おもに女性の肥満で肌がくすみ、血行が悪く、冷えのぼせ、便秘傾向の肥満やいわゆるかくれ肥満や固太りに用いられます。また血行を改善、気持ちを落ち着かせ、ホルモンのバランスを整える効果もあるため、のぼせと冷え、肩こり、頭痛、耳鳴り、不安や興奮などの不定愁訴を伴う産後や更年期以降の慢性的な肥満にも効果的です。
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- 4. 防已黄耆湯
- 皮膚は湿りがちで冷たく、色白でポチャッとした肥満で、水太りや下半身のむくみ、変形性膝関節症でひざに水が溜まるなど下半身や皮膚などの余分な水分の排出を促進することにより肥満を改善します。作用機序として褐色脂肪細胞組織で熱産生促進作用や、レプチン増加による食欲抑制作用などが報告されています。防風通聖散と併用して効果が得られる場合もあります。
循環障害の改善として(駆瘀血剤)
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- 1. 桂枝茯苓丸
- 駆瘀血剤の代表的な方剤であり、一般に月経に関連する症状の改善に頻用されますが、男女を問わずに瘀血(末梢循環障害)状態が認められれば病名を問わず広く使用されます。糖尿病の合併症はいずれも血管の障害であり、合併症の進展には瘀血状態が大きく関与するため、この改善が必要です。また、最近の研究でインスリン抵抗性の改善効果が認められることがわかってきており、生活習慣病には必須の処方と考えられます。