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臨床での活用対薬理論でみてみましょう!松橋漢方塾

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第3章 冷えと痛みの弁証論治 ~流動と阻滞の原因~

「冷え」と「痛み」の原因の考え方

 東洋医学では身体は機能的側面である気と、実体的側面である血、津液(水)に分けられる。こうした気や血、津液は常に経絡に沿って体の中を流動しており、この流動している状態が正常、つまり健康である。これに対して病理はこれらが虚する、あるいは流れが滞ることで生じる。冷え(寒証)と痛みの原因も同様である。
 まず虚の病理から考える。気には温煦機能があるため、気虚ではこの機能が低下し、寒証となる。また必要なものが行き渡らなくなることで痛みも生じる。虚の病理により痛みが生じることを「不栄則痛ふえいそくつう」という。血虚では陽(気)の温煦作用を抑える陰(血)が少なくなることで、ほてりが生じることが多いが、寒証となる場合もある。「血は気を載せる」といって、血が少なくなれば気も少なくなるためである。津液不足(陰虚)ではほてりが生じ、寒証、痛みはない。
 流れが滞る病理では、気・血・津液いずれの要因でも寒証、痛みが生じる。気滞では温煦作用が滞るため、寒証となる。体の中心部の冷えはないが、手足の先だけ冷えるような場合、気滞の寒証が疑われる。流れが滞ることにより生じる痛みを「不通則痛ふつうそくつう」という。気滞では張ったような痛みを生じ、血瘀※1ではズキズキする痛みを生じるのが特徴である。水滞(痰湿)では、気や血の流れが妨害されることと、それ自体が寒性邪気であることから、寒証を生じる。痛みは重だるいのが特徴である。

図3-1. 冷えと痛みの原因
図3-1. 冷えと痛みの原因

 このように気・血・津液は不足したり、滞ったりすると、種類や性質に違いはあるものの、概ね寒証と痛みを生じることがわかる。生じ方が似ていることから、寒証と痛みは一緒に考えたほうがよい。
 ここまで寒証と痛みが生じる生体側の病理、つまり内因について解説したが、寒証と痛みの原因としては外因もある。外因である邪気には、風寒暑湿燥火の6つがある(六邪)が、この中で寒証と痛みを発生あるいは増悪させるのは「風」「寒」「湿」の3つである。「風」は邪気の性質、変化を表すため、実質的に寒証と痛みの原因となるのは「寒」と「湿」である。

※1 血瘀: 瘀血を生じる証のこと。
痺証の特徴と治療

 痺証の弁証論治を冷えと痛みに着目して解説していく。痺証とは筋・骨格系の痛みを総称していう。痺証には次の3つの特徴がある。

痺証の特徴

① 気虚が基礎にあることが多い:気虚は血虚、水滞など全ての証の基本となる。

② 寒、湿が特徴となることが多い:痺証は風寒湿で特徴付けられる。

③ 血虚、血瘀、腎虚を伴うことが多い:血虚、血瘀は気虚から進展して現れる。また特に病理が長期間になると腎に及びやすい(久病及腎)。

痺証の治療原則

 治療原則としては、この痺証の特徴に従って、寒と湿のどちらが主であるかを考え、温経うんけい※2祛湿きょしつ※3をする。さらに症状に合わせて補血や活血、補腎などの治療も行う。このように痺証の病理を把握することで、症状の背景を診察し、方剤を選ぶことが重要である。

※2 温経:経路を温めること。
※3 祛湿:湿邪を取り除くこと。

桂枝加苓朮附湯 けいしかりょうじゅつぶとう -温経に重点をおいた方剤-

 桂枝加苓朮附湯は温経、祛湿、補血と痺証の治療原則に沿った生薬構成で、全ての生薬が対薬を構成する。

対 薬附子と桂皮

 温経の対薬である。どちらも温経薬だが、附子は気分きぶん※4、桂皮は血分けつぶん※5を温める。それぞれで異なる部位を温めることにより温経の作用が万全となる。

対 薬白朮と茯苓

 祛湿の対薬である。気虚のときにまず虚しやすいのは脾であり、ここから治療する。祛湿するときにも同様に脾から治療する。白朮は健脾により、脾の運化作用を促すことで燥湿する。茯苓は腎より利水することで「燥を好む」脾を健脾する。

対 薬生姜と大棗

 脾だけでなく、胃の調整も必要である。生姜の辛味と、大棗の甘味が胃を刺激し、機能を高めることで、脾を調整する白朮と茯苓の対薬を補助する。

対 薬芍薬と甘草

 血虚に配慮した、補血の対薬である。「芍薬甘草湯しゃくやくかんぞうとう」が芍薬と甘草の2薬より構成されているように、これらが対薬とみてよい。補血を目的とした芍薬に補気作用のある甘草が配合されているのは「酸甘化陰さんかんけいん」という考えによる。酸甘化陰とは、酸味と甘味のある生薬を組み合わせることで、より陰分を補う作用が高まることである。酸味のある芍薬は肝に入り補血、甘味のある甘草は脾に入り補気する。血をつくるには気の力が必要となる。

 桂枝加苓朮附湯は痺証の治療の中では、附子と桂皮による温経に重点をおいた方剤である。このため寒がり、冷え症など寒証が目立つときに用いる。

※4 気分:身体の機能側面である気がつかさどる領域。
※5 血分:身体の実体側面である血がつかさどる領域。
図3-2. 桂枝加苓朮附湯の生薬構成
図3-2. 桂枝加苓朮附湯の生薬構成

薏苡仁湯よくいにんとう -祛湿に重点をおいた方剤-

 薏苡仁湯も痺証の治療原則に沿った生薬構成だが、桂枝加苓朮附湯とは対照的に、祛湿に重点をおいた方剤である。このためむくみやすい、舌苔が厚いなど湿証が目立つときに用いる。

対 薬麻黄と桂皮

 薏苡仁湯では附子の代わりに麻黄が配合されている。麻黄と桂皮はともに温経通絡するが、麻黄には利水作用もある。

対 薬白朮と薏苡仁

 祛湿の対薬である。どちらも健脾することで祛湿し、痺証の痛みをとる。脾は津液の流れを調節するおおもとであるため、健脾することが重要である。薏苡仁は茯苓よりも痛みをとる作用に優れる。祛湿して痛みをとることを「勝湿しょうしつ」という。

対 薬当帰と芍薬

 補血の対薬である。当帰は温性、発散性の生薬で、芍薬は寒性、収斂性の生薬である。両者を合わせると、それぞれの作用は相殺され、必要とする補血作用だけが高められる。

 同じ痺証に対する方剤であっても、桂枝加苓朮附湯は温経、薏苡仁湯は祛湿に重点をおいている。この2つは痺証の治療に対して、対になる方剤「対方たいほう」である。

図3-3. 薏苡仁湯の生薬構成
図3-3. 薏苡仁湯の生薬構成

防已黄耆湯ぼういおうぎとう -祛湿を補助する方剤-

 津液の流れは、水穀の気より気・血・津液をつくる脾にはじまり、昇清機能により肺へと向かう。肺はこの津液を宣発機能にて全身へ運ぶ。そして腎が余分な津液を利水する。この3つの臓の連携によって津液の流れができている。
 防已黄耆湯にはこの津液の流れに関わる脾、肺、腎の3つの臓をそれぞれ補う生薬が含まれている。白朮は脾、黄耆は肺、防已は腎を助け利水を促す。甘草、大棗、生姜は補助的に健脾する。防已黄耆湯は、痛みに対する直接的な作用(勝湿)はないため、天気が悪いときに悪化するむくみなどの症状に補助的に用いられる。

図3-4. 津液の流れを助ける防已黄耆湯の生薬
図3-4. 津液の流れを助ける防已黄耆湯の生薬

真武湯しんぶとう -冷えとむくみに対する方剤-

 真武湯は主に寒証に用いられるが、痺証に対しても桂枝加苓朮附湯や薏苡仁湯、他の活血剤などと組み合わせて用いられる。

対 薬附子と生姜

 どちらも温経薬であり、気の機能(温煦作用)を補う。附子は腎に入り、生姜は胃に入り温める。

対 薬白朮と茯苓

 祛湿の対薬である(桂枝加苓朮附湯の項を参照)。

 このように真武湯にも痺証の治療原則に沿って温経と祛湿の対薬が含まれている。この4つの生薬はさらに別の対薬の組み合わせとしてみることもできる。寒証では気の温煦機能が低下しているため、温めながら治療しなければならない。これに対して、附子と茯苓は腎を温めながら利水する対薬、生姜と白朮は脾胃を温めながら健脾する対薬である。つまり、これら4つの生薬は図3-5のように井桁型の対薬対を構成している。
 真武湯は腎に作用するため、腰の冷えや、下半身の痛み、冷え、むくみなど腎虚の症状に用いられる。

芍薬

 真武湯には井桁型の4つの生薬とは別に、芍薬が配合されている。芍薬の配合理由としては2つ考えられる。

① 副作用の防止:真武湯は温陽、祛湿する方剤であるため、井桁型の4つの生薬はいずれも温性、燥性である。これに対して芍薬は逆の寒性、潤性(補血)により、他薬の温燥性の行き過ぎを緩和する。

② 効果の増強:真武湯は温陽するのが目的であるが、陽と陰は相互依存関係にあるため、芍薬により陰を補うことで、陰陽双方を補うことができる(陰中求陽いんちゅうきゅうよう)。

図3-5. 真武湯の生薬構成
図3-5. 真武湯の生薬構成

当帰四逆加呉茱萸生姜湯とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう -血虚による寒証に対する方剤-

 寒証の原因は主に気虚(陽虚)であるが、血虚による場合もある。血虚による寒証を「血寒けっかん」という。当帰四逆加呉茱萸生姜湯は温経止痛と補血の対薬を中心に、血寒による冷えや痛み、口渇(乾燥)、ほてりなどの症状を治す。

対 薬桂皮と細辛

 温経止痛の対薬である。作用する領域が異なり、桂皮は血分、細辛は気分を温める。

対 薬呉茱萸と生姜

 同じく温経止痛の対薬であるが、こちらは入る臓(経絡)が異なる。呉茱萸は肝経に入り、生姜は脾胃に入る。肝経は胃の両脇を通っているため、腹が強く冷える(内寒)と、肝経へも冷えが伝わる。このとき、嘔気、頭痛などの症状が現れる。呉茱萸と生姜の対薬はこれを温経止痛する。

対 薬当帰と芍薬

 血虚から血瘀や気虚を生じ、寒証が現れている。このため、血を補う必要がある。補血のために当帰と芍薬の対薬が配合されている。

図3-6. 当帰四逆加呉茱萸生姜湯の生薬構成
図3-6. 当帰四逆加呉茱萸生姜湯の生薬構成

人参養栄湯にんじんようえいとう -腎虚による上熱下寒に対する方剤-

 人参養栄湯は補気の基本方剤である四君子湯の構成生薬と、補血の基本方剤である四物湯の構成生薬が配合された気血双補の方剤である。しかし、補気・補血を主体としないその他の生薬に目を向けると、人参養栄湯は腎を補い「上熱下寒じょうねつげかん」を治療する方剤であることがわかる。

川芎を抜く意味

 同じ気血双補の方剤である十全大補湯には、補血活血薬として川芎が配合されているが、人参養栄湯ではこれが抜かれている。人参養栄湯は気血両虚のかなり進行したものに使用されるが、川芎は発散性、破気、耗血もうけつ※6が強く、さらに虚熱を煽ってしまうためであると考えられる。

陳皮

 気血双補が目的であっても、補う生薬が多く入っていれば流れが悪くなるため、人参養栄湯では陳皮が理気薬として配合されている。

薬 連遠志と桂皮と五味子

 遠志は「心腎相交しんじんそうこう」させる働きがある。心腎相交とは、心と腎の協調関係のことである。五行論で考えると、心は火に属し熱を持ちやすく、腎は水に属し冷えやすい。これに対して、心火が亢進し過ぎないように腎水が制御し、腎水が冷え過ぎないように心火が温める。このため腎虚となるとこの関係がくずれて「心腎不交しんじんふこう」となり、心火は過亢進して動悸、ほてり、発汗、不眠などが現れ、また腎虚の症状としては腰痛や排尿症状、下半身の冷えなどを伴う。このように上半身に熱証、下半身に寒証が現れることを「上熱下寒じょうねつげかん」という。遠志は心腎相交を回復させることで、上熱下寒を治す。
 桂皮は「引火帰元いんかきげん」といって、虚証によって発生した熱(虚火)を、腎を温めることで元に戻す作用がある。
 五味子は腎虚によって生じた関連証を治療する。つまり心に対しては寧心安神し、肺に対しては潤燥して止咳するとともに自汗を止め、脾腎陽虚の下痢に対しては酸収※7作用にて止瀉する。

※6 耗血:気血を流し過ぎて、血を損なってしまうこと。
※7 酸収:酸味のある生薬が収斂作用により、汗や下痢を止めること。
図3-7. 人参養栄湯の生薬構成
図3-7. 人参養栄湯の生薬構成