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臨床医師へのインタビュー抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)

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インタビュー

宮澤 仁朗 先生

さっぽろ悠心の郷
ときわ病院 院長 宮澤 仁朗 先生
(インタビュー日:2018年2月1日)

profile

1987年
札幌医科大学 神経精神医学教室 入局
1988年
総合病院伊達赤十字病院 勤務
1990年
札幌医科大学神経精神医学教室
1992年
さっぽろ悠心の郷 ときわ病院 勤務
2000年
さっぽろ悠心の郷 ときわ病院 副院長
2001年
さっぽろ悠心の郷 ときわ病院 院長
2007年
札幌医科大学医学部神経精神医学講座 臨床准教授

さっぽろ悠心の郷ときわ病院 宮澤院長のインタビューを掲載いたします。
高齢者の不眠症における抑肝散加陳皮半夏の有用性について語っていただきました。

インタビュー
「高齢者の不眠症に対する漢方の有用性」

 睡眠薬による不眠治療は即効性があり、確実な効果が期待できますが、短期・長期の副作用や依存性の問題から、近年、漢方薬への注目度が増しています。本日は加齢とともに増加するといわれている不眠症の特徴とあわせて、認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)にも用いられることが多い抑肝散加陳皮半夏の有用性について伺いました。

[ インタビュー日:2018年2月1日 ]

不眠症の一般的な概念についてお聞かせください

 不眠症は寝付きが悪くなる入眠障害、熟眠ができなくなる熟眠障害、睡眠途中で何度も目覚めてしまう中途覚醒、早朝に目覚めてしまう早朝覚醒に分けられます。日本人は入眠障害が約6割と最も多いです1)。近年では中途覚醒も増加傾向にあるといわれています。不眠症の症状は患者さんの主訴によって判明しますが、日中の苦痛や集中力低下など日中の生活に影響が及んでいることが確認できて、はじめて不眠症と診断されます。
 また、日本人の5人に1人が睡眠に関して何らかの悩みを抱えているという調査結果もあり2)、特に中高年女性では2人に1人とその頻度が顕著です。不眠症は加齢に伴って増加する傾向もあります3)。原因としては高齢になると日中の活動が減少すること、基礎疾患(高血圧、糖尿病、認知症など)を伴うことなどが挙げられます。

基礎疾患も不眠の要因になるということですが、疾患との関係性についてお聞かせください

 不眠はあらゆる疾患に伴いやすいことがわかっています。特にうつ病では最大の危険因子であり、うつ病患者の90%に不眠が認められます。
 生活習慣病との関わりも深く、2型糖尿病では夜間の口渇・発汗・神経痛などの影響から、2型糖尿病患者の半数以上に不眠があることがわかっています。睡眠維持障害は肥満に次ぐ2型糖尿病発症の危険因子であり4)、また、長・短時間の睡眠は、体重や体脂肪を増加させるとの報告もあります5)。高血圧も不眠を来たしやすい疾患の一つです。高血圧患者の不眠症罹患率を調査した結果によると、47.9%に不眠が認められました6)。睡眠時間が短くなると血圧が有意に高くなることも報告されています7)
 不眠は認知症と密接に関連していることも広く知られており、アルツハイマー型認知症(Alzheimer's disease:AD)の64%、レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies:DLB)の89%に睡眠障害が認められます8)。DLBでは睡眠時に大声で叫んだり暴れたりするレム睡眠時行動障害(REM Sleep Behavior Disorder:RBD)がみられやすく、本疾患の特徴的な症状の一つと言われています。AD発症の主要な原因として、脳におけるアミロイドベータタンパク質(Aβ)の蓄積が知られていますが、近年、その機序に睡眠が関与していることがマウスを用いた研究で解明されています9)。脳の神経細胞の細胞体は睡眠時に収縮しますが、このとき生じた間隙に脳脊髄液が灌流することでAβや老廃物を脳外に排出することがわかってきました。つまり逆にいうと不眠になれば脳脊髄液による老廃物の除去作用が減弱し、Aβが蓄積しやすくなり、それだけAD発症リスクを高めることにつながると考えられます。

不眠症に用いられる睡眠薬(西洋薬)にはどのような特徴があるのでしょうか

 日本で多く使用されているベンゾジアゼピン系睡眠薬は、GABA(γ-アミノ酪酸)受容体の機能を亢進し、抑制性伝達物質であるGABAAの作用を増強させます。抗不安作用、催眠作用、抗痙攣作用、筋弛緩作用を有しますが、依存性や筋弛緩作用によるふらつき・転倒、反跳性不眠を来たしやすいことから、最近ではこれらの有害事象が少ないとされる非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Zドラッグ)が徐々に主流になってきています。ただし、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬でも有害事象がまったくないわけではありません。
 バルビツール系睡眠薬は、20世紀初頭の最も古いタイプで、依存性が強く、大量の服薬により呼吸抑制を来たすため、現在、精神科ではなるべく処方しないようになっています。メラトニン受容体作動薬は、睡眠活性物質であるメラトニンを賦活させます。比較的マイルドな睡眠障害に適しています。オレキシン受容体拮抗薬は、覚醒状態から睡眠状態へと移行させます。服用初日から効果が現れ、入眠障害、中途覚醒の改善が期待できます。

睡眠薬使用時の留意事項としてはどのようなことがありますか

 理想の睡眠薬の要件は、①入眠困難に効果がある、②睡眠維持困難に効果がある、③翌日への持ち越し効果がない、④耐性、依存性、離脱症状がない、⑤日中の機能を改善する、ということになりますが、現在のところ、これらをすべて満たす睡眠薬はありません。
 また、睡眠薬の副作用としては、持ち越し効果、記憶障害、筋弛緩作用、反跳性不眠、無呼吸の悪化がありますが、特に服用中止時の反跳性不眠に注意する必要があります。服薬中止は、基本的に長時間型・中間型では徐々に休薬期間を増やしていき、短時間型では投与量を漸減していきますが、作用時間が短時間であるほどリバウンドを起こしやすい傾向があります。超短時間型では良好な経過の元、いっきに断薬すると、とたんに不眠が再発してしまうことがあります。それから再度治療を行う際には、服用する以前よりも不眠が増強し服薬量も倍増します。

高齢者の不眠治療のポイントをお聞かせください

 不眠を訴える高齢者への指導としては、加齢に伴い睡眠時間が短縮することや、若いころのように熟睡感を得ることが難しいことをお話します。また高齢者は、眠れないという自覚症状に対し不安・焦燥感が非常に強いため、その軽減を図るようにしています。日中の昼寝が夜の入眠に影響することもありますので昼寝は30分以内にとどめていただくようにしています。適正な時間帯に眠る習慣を付けていただくことも大切です。
 また、高齢者は代謝・排泄機能の低下などによる薬物動態の変化に注意が必要です。若い人と同様の薬剤、成分量であっても血中半減期が延長し体内に残ってしまうということがあります。この点は、睡眠薬に限らず高齢者の薬物治療全般で留意すべきポイントです。

宮澤先生は高齢者の不眠症において漢方薬を応用されているとお聞きしています。
どのような漢方薬を処方されているのでしょうか

 高齢者の不眠に対しては神経のたかぶりやイライラに効果が期待できる抑肝散加陳皮半夏が良い適応と考えています。昨今、認知症のBPSDに対して漢方薬が注目されていますが、なかでも代表的な漢方薬として抑肝散が広く知れわたっています。抑肝散は古くから小児疳症や夜驚症の子どもと、それに伴う育児ノイローゼ、神経症、不眠症に陥った母親、双方で服用する方剤とされてきました。近年では認知症のBPSDにも処方され、その効果が認められています10)。構成生薬からみた薬理作用としては、当帰のセロトニン受容体活性化、釣藤鈎の5-HT1A受容体刺激作用、5-HT2A受容体遮断作用、グルタミン酸誘発痙攣抑制作用およびAβ凝集抑制作用11,12)などが報告されています。眠りに関する生薬は、これらに加えて川芎、柴胡、甘草が鎮静、鎮痛の静穏化に関与しているといわれています。
 抑肝散加陳皮半夏は抑肝散に陳皮と半夏を加えた方剤で、消化吸収効果を高める効能が期待でき、抑肝散より神経症状が強く、悪心、嘔吐などの消化器症状を伴う場合に用いられます。また、陳皮の成分であるノビレチンは、記憶障害改善作用、脳コリン作動性神経の変性抑制作用、脳内でのAβの蓄積抑制作用およびAβによる神経毒性抑制作用を有することが報告されています13)
 高齢者は「眠れない」という自覚症状に対して強い不安や焦燥感を持っています。抑肝散加陳皮半夏はこれらの症状を抑え、寝つきを良くすることで特に入眠障害に効果が期待できます。現在、多くの睡眠薬が存在していますが、抑肝散加陳皮半夏は直接的な薬ではないにしても、良い効果をもたらしてくれると考えています。高齢者への睡眠薬の投与は短期に中止することが理想ですが、眠れないことに対して極度の恐怖心を持っている人は、一度服用をはじめるとなかなか中止ができません。このような際に抑肝散加陳皮半夏を代替として上手く取り入れることが可能です。抑肝散加陳皮半夏は副作用の懸念が低く、長期の維持療法にも適していると考えられます。ただし、偽アルドステロン症を来す甘草を含んでいることから、全身倦怠感、脱力感、血圧上昇、浮腫等の初期症状および血清カリウム値の低下には注意が必要です。
 睡眠薬を使用することなく、漢方薬によって睡眠を得ることができれば、より優しい不眠症治療になると考えます。

抑肝散加陳皮半夏の患者像を、高齢者の精神疾患の特徴と合わせてお聞かせください

 近年、高齢者の精神疾患で増加傾向にあるのがうつ病です。若い人のうつは抑うつ状態で「気持ちが落ち込む」「意欲がわかない」という症状が典型ですが、高齢者うつ病は不安・焦燥感・イライラが主訴となります。「夜間眠れずに不安でしかたがない」といった症状も含みます。高齢者のうつ病患者に抑肝散加陳皮半夏を処方したところ、2~4週間という短期間で、不眠が軽快した症例を多く経験しています。高齢者のうつ病患者でイライラや不安がある人には良い適応と考えます。抑肝散加陳皮半夏は認知症のBPSDにも効果を発揮します。イライラや攻撃性、暴言や不穏を取り除くことができれば、夜間の睡眠にも良い効果が期待できます。

高齢者社会における漢方薬に対する期待をお願いします

 日本は保険適用で漢方薬の処方ができる世界でも稀有な国です。西洋薬と漢方薬の互いの良さを活かしながら医療を展開していくことが高齢化社会を迎えたわが国とって不可欠と考えています。また、多成分系を特徴とする漢方薬を積極的に使用していくことは、向精神薬の多剤投与、いわゆるポリファーマシーの是正にも貢献すると思っています。

【参考文献】
  1. エポカマーケティング調査. 1999
  2. 白川修一郎ほか: 平成7年度厚生労働省 精神・神経疾患研究委託睡眠障害の診断・治療及び疫学に関する研究報告書. 7, 1996
  3. 大川匡子ほか: 平成7年度厚生労働省 精神・神経疾患研究委託睡眠障害の診断・治療及び疫学に関する研究報告書. 7-23, 1996
  4. Mallon L. et al: Diabetes Care. 28(11); 2763, 2005
  5. Chaput JP. et al: Sleep. 31; 517-523, 2008
  6. Prejbisz A. et al: Blood Pressure. 15(4); 213, 2006
  7. Lusardi P. et al: Am J Hypertens. 12(1); 63, 1999
  8. Rongve A. et al.: J Am Geriatr Soc. 58(3); 480-486, 2010
  9. Xie L. et al.: Science. 342(6156); 373-377, 2013
  10. Iwasaki K, Satoh-Nakagawa T, Maruyama M. et al.: A Randomized, Observer-Blind, Controlled Trial of the Traditional Chinese Medicine Yi-Gan San for Improvement of Behavioral and Psychological Symptoms and Activities of Daily Living in Dementia Patients. J Clin Psychiatry 66: 248-252, 2005
  11. 五十嵐康; 抑肝散の作用メカニズムの解明. Geriat Med. 46: 255-261, 2008.
  12. 岩崎 鋼; 精神神経疾患領域—認知症対策における漢方薬の有用性—. 日本東洋医学雑誌 58: 621-631, 2007

臨床研究報告

  • 抑肝散加陳皮半夏の臨床研究報告 アルツハイマー型認知症に対する抑肝散加陳皮半夏の臨床的検討
    抑肝散加陳皮半夏の臨床研究報告
    アルツハイマー型認知症に対する抑肝散加陳皮半夏の臨床的検討

    宮澤 仁朗 先生
    医療法人 ときわ病院

    品番:
    GR-041
    サイズ:
    A4 4P
    作成年月:
    2009年7月
    PDF 2.0MB
  • 不眠症に対する抑肝散加陳皮半夏の効果
    不眠症に対する抑肝散加陳皮半夏の効果

    髙森 信岳 先生
    医療法人社団ほがらか会 室井整形外科・心療内科

    品番:
    GR-118
    サイズ:
    A4 4P
    作成年月:
    2016年4月
    PDF 1.4MB
  • 抑肝散加陳皮半夏について
    抑肝散加陳皮半夏について

    安井 廣迪 先生
    日本TCM研究所

    品番:
    GR-081
    サイズ:
    A4 2P
    作成年月:
    2013年1月
    PDF 769KB
  • 抑肝散加陳皮半夏の臨床研究報告 ランダム化比較オープン試験による 抑肝散加陳皮半夏の認知機能に関する臨床的検討
    抑肝散加陳皮半夏の臨床研究報告
    ランダム化比較オープン試験による
    抑肝散加陳皮半夏の認知機能に関する臨床的検討

    クラシエ製薬株式会社 漢方研究所

    品番:
    GR-091
    サイズ:
    A4 4P
    作成年月:
    2013年8月
    PDF 1.5MB
  • 抑肝散加陳皮半夏の臨床研究報告 介護からみた認知症患者に対する抑肝散加陳皮半夏の有用性 ―"飲むレスパイトケア"という提案―
    抑肝散加陳皮半夏の臨床研究報告
    介護からみた認知症患者に対する抑肝散加陳皮半夏の有用性
    ―"飲むレスパイトケア"という提案―

    鈴木 郷 先生
    医療法人 孝佑会 ごう内科クリニック

    品番:
    GR-080
    サイズ:
    A4 4P
    作成年月:
    2013年1月
    PDF 1.3MB
  • 第36回日本認知症学会学術集会 ランチョンセミナー12 BPSD様症状に対して効果が期待出来る漢方薬について
    第36回日本認知症学会学術集会 ランチョンセミナー12
    BPSD様症状に対して効果が期待出来る漢方薬について

    秋下 雅弘 先生
    東京大学大学院医学系研究科 加齢医学講座 教授
    田上 真次 先生
    大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室 医学部講師

    品番:
    GR-133
    サイズ:
    A4 4P
    作成年月:
    2018年3月
    PDF 2.68MB

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