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臨床医師へのインタビュー抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)

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インタビュー

木村 容子 先生

東京女子医科大学附属
東洋医学研究所 副所長/准教授
木村 容子 先生
(インタビュー日:2017年10月21日)

profile

お茶の水女子大学を卒業後、中央官庁入省(国家公務員1種)
英国Oxford大学大学院 修士課程修了

2000年
東海大学医学部(学士入学)卒業
2002年
東京女子医科大学附属 東洋医学研究所 助教
2007年
同研究所 講師
2008年
同研究所 副所長
2010年
同研究所 准教授

東京女子医科大学附属 東洋医学研究所 副所長/准教授 木村容子先生のインタビューを掲載いたします。
介護者のケアに漢方薬を用いることの意義について語っていただきました。

インタビュー
「介護者のケアに漢方薬を用いることの意義」

 超高齢社会が急速に進展している現代において、認知症対策は非常に大きな課題です。近年、認知症の周辺症状(BPSD)に対する抑肝散および抑肝散加陳皮半夏の有用性が報告され、その注目度は高まっていますが、一方で患者さんのご家族を含めた介護者のケアは十分とはいえません。
 今回は、日常診療において介護者のケアにも取り組んでおられる東京女子医科大学附属東洋医学研究所副所長/准教授の木村容子先生に、介護者が抱えるストレスに対する抑肝散加陳皮半夏の臨床応用と可能性についてお話をうかがいました。

[ インタビュー日:2017年10月21日 ]

超高齢社会を迎え、臨床現場でもさまざまな変化が起こっていると思います。
認知症患者さんとその介護者の現状について教えてください。

 認知症の患者さんはさまざまなケアを受けていますが、介護をしている人(介護者)がケアの対象として注目されることは少ないかと思います。介護者は“終わりのない責務”を抱えているため、精神的・身体的な負担が大きいにもかかわらず、あまり注目されていないのが現状です。
 当院は、一般的な大学病院の漢方外来とは異なり、大学附属機関のクリニックとして独立しています。受診される患者さんの8割以上が女性で、都心にあるためか比較的若い30~50歳代の患者さんが多く受診されます。
 その中には介護をされている方も多くいらっしゃいますが、「介護疲れやストレス」といった介護に直接関わる症状を自認して来院されることはまれです。頭痛、慢性湿疹、ひどい頸の凝りなどの身体症状、不眠、イライラ、動悸、不安感などの精神神経症状など、様々な症状を訴えて来院されます。ご自身の症状が介護に関連するとは思っておられず、診察の過程で、背後に隠れた介護ストレスの存在が明らかになることも珍しくありません。

介護者にはどのようなケアが必要ですか?またその対処法について教えてください。

 介護を担うご家族はさまざまな面で大きな負担を強いられます。介護をどの程度までやればよいかの判断がつかずに、休養をとることやご自身の時間を持つことに罪悪感を持つだけでなく、身体を壊すまで介護しないと「やっている」とご自身を認めることができないため、身体だけでなく精神的に追いつめられてしまうこともあります。
 とくに、介護者がご家族のような身内の場合は、介護される人の「昔のしっかりした姿」を知っているだけに余計にイライラしてしまいますし、高齢者同士の介護ではお互いのもの忘れなどによってさらにイライラがつのったりもします。
 実はこれは、漢方の考えでみてみると、介護する人と介護される人の双方に心身活動のエネルギー(気)が少なくなった状態であることが、本当の原因かも知れません。気持ちに余裕がなくなり互いに追い詰め合っているのです。
 そのような方には、漢方医学の「心身一如」、ココロとカラダは切り離せないという考え方を知っていただきたいと思います。介護者のココロとカラダがアンバランスな状態では、介護される側にも悪影響を及ぼします。介護する人が自身の心身のバランスを保つことが、いかに重要であるのか、これまで見過ごされてきたように思います。まずは一人で介護を抱え込んで自分を追い込まず、介護と私生活とのバランスをできる範囲で崩さないことが大切です。ゆっくりと自分の時間をとることが難しくても、一日に5分でもよいのでご自身のための時間を持つことでONとOFFをつけることを心がけてください。

先生が介護者の患者さんに処方されている抑肝散加陳皮半夏について教えてください。

 抑肝散(柴胡 釣藤鈎 当帰 川芎 朮 甘草 茯苓)の原典は薛鎧の『保嬰撮要』(1556年)とされていましたが、私たちは「愚製」の表現に着目して改めて古典を検討したところ、抑肝散は薛己(薛鎧の息子)の創方であり、『保嬰金鏡録』(1550年)が原典であることを明らかにしました(図1)1)

図1.抑肝散加陳皮半夏の原典
抑肝散加陳皮半夏の原典

 抑肝散に陳皮と半夏を加味した抑肝散加陳皮半夏は、本朝経験方といわれ、痰飲の基本処方である二陳湯の方意があります。浅井南溟の『腹診録』には、「左の臍の辺より心下までも動悸盛なるは肝木の虚火甚しき証」と解説され、抑肝散証よりも虚している状態で、腹部大動脈の拍動が臍から心窩部まで連なって触診できる場合に用いられます。
 第22回東洋医学シンポジウム(第66回日本東洋医学会総会)では、各科領域から提示された症例に基づいて、抑肝散加陳皮半夏の“現代の口訣”を図2のように結論付けました3)

図2.抑肝散加陳皮半夏の“現代の口訣”
抑肝散加陳皮半夏の“現代の口訣”

 日中は活動神経である交感神経を優位に働かせて、夜にはリラックス神経である副交感神経にスイッチする必要がありますが、クールダウンするにもエネルギー(気)が必要です。虚証の人は、自分の力でクールダウンするのに時間がかかることが多く、数時間かかると夜中になってしまい不眠の原因にもなります。介護は重労働であるため、介護者はエネルギー不足の気虚の状態になりやすく、また一日中気を張りつめているため、ご自身のエネルギー(気)でクールダウンするのに時間がかかってしまいます。
 この場合、抑肝散加陳皮半夏を服用することで、興奮した神経を速やかに鎮めて気の働きを整えることができます(図3)。抑肝散加陳皮半夏は、抑肝散に気の巡りを良くする陳皮と、頭に上った気を下げる働きがある半夏が配合されているため、気の働きを整える効果が一層高められています。また、陳皮と半夏は胃腸の働きを助けるため、胃腸が虚している介護者の女性にも適している処方といえます。

図3.抑肝散加陳皮半夏の臨床応用
抑肝散加陳皮半夏の臨床応用

介護者に対する抑肝散加陳皮半夏の臨床経験について教えてください。

 私たちは、長期の介護により生じたさまざまな症状が、抑肝散およびその加味方で改善した成人の8症例を報告しました2)。各症例の多岐にわたる愁訴の背景には、介護ストレスによる情緒、筋、眼などと関係の深い肝の機能に異常をきたしているという共通点があり、肝気を疏する必要があると考えました。
 精神的・身体的な健康状態が互いに影響を及ぼし合うような濃厚な人間関係は、「母子関係」に通じます。本来の親子関係とは逆転しますが、介護される側を「子」、介護する側を「母」ととらえ、双方が抑肝散加陳皮半夏など抑肝散およびその加味方を同時に服用したところ、両者に症状の改善が認められました。抑肝散の「子母同服」の考え方を応用し、良好な結果が得られたと解釈することができます。
 抑肝散加陳皮半夏はイライラした感情を表に出す人に使用するイメージが強いかもしれませんが、我慢して感情を内に溜めてしまう人にも有効な場合がありますので、我慢しなければならないことが多い介護者は、抑肝散加陳皮半夏のよい適応と考えられます。このように抑肝散加陳皮半夏は、幅広く臨床に応用できる処方です。

これからの医療の中で、漢方薬に期待していることについて教えてください。

 超高齢社会においては、介護者もご自身の健康のピークを過ぎた状態でありながら介護を続けなければなりません。介護者が心身ともに健康でなければ、介護される人が幸せな生活を享受することはできません。介護する側と介護される側が共倒れにならないためにも介護者の心身を良好に保つことは重要であり、そのためには、加齢と伴に少なくなる気をいかに補い巡らせるかが重要になります。抑肝散加陳皮半夏を始め、多くの漢方薬は気の働きを整えますので、今後は介護者の状況に応じた細やかな対応が漢方治療で期待されると思います。

【参考文献】
  1. 杵渕彰ほか:抑肝散の原典について.日東医誌 65: 180-184, 2014
  2. 木村容子ほか:介護者が抱える諸症状に抑肝散およびその加味方が有効な症例. 日東医誌 59: 499-505, 2008
  3. Phil漢方 No.56: 16-20, 2015

臨床研究報告

  • 抑肝散加陳皮半夏の臨床研究報告 アルツハイマー型認知症に対する抑肝散加陳皮半夏の臨床的検討
    抑肝散加陳皮半夏の臨床研究報告
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    宮澤 仁朗 先生
    医療法人 ときわ病院

    品番:
    GR-041
    サイズ:
    A4 4P
    作成年月:
    2009年7月
    PDF 2.0MB
  • 抑肝散加陳皮半夏の臨床研究報告 ランダム化比較オープン試験による 抑肝散加陳皮半夏の認知機能に関する臨床的検討
    抑肝散加陳皮半夏の臨床研究報告
    ランダム化比較オープン試験による
    抑肝散加陳皮半夏の認知機能に関する臨床的検討

    クラシエ製薬株式会社 漢方研究所

    品番:
    GR-091
    サイズ:
    A4 4P
    作成年月:
    2013年8月
    PDF 1.5MB
  • 抑肝散加陳皮半夏の臨床研究報告 介護からみた認知症患者に対する抑肝散加陳皮半夏の有用性 ―"飲むレスパイトケア"という提案―
    抑肝散加陳皮半夏の臨床研究報告
    介護からみた認知症患者に対する抑肝散加陳皮半夏の有用性
    ―"飲むレスパイトケア"という提案―

    鈴木 郷 先生
    医療法人 孝佑会 ごう内科クリニック

    品番:
    GR-080
    サイズ:
    A4 4P
    作成年月:
    2013年1月
    PDF 1.3MB
  • 抑肝散加陳皮半夏の臨床研究報告 認知症に対する抑肝散加陳皮半夏の効果 ~東洋医学的観点も加えて~
    抑肝散加陳皮半夏の臨床研究報告
    認知症に対する抑肝散加陳皮半夏の効果
    ~東洋医学的観点も加えて~

    馬込 敦 先生
    医療法人茜会 昭和病院

    品番:
    GR-053
    サイズ:
    A4 4P
    作成年月:
    2011年1月
    PDF 1.1MB

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