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臨床医師へのインタビュー人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)

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インタビュー

加島 雅之 先生

熊本赤十字病院 総合内科 部長
熊本大学医学部 臨床教授 漢方担当
宮崎大学医学部 臨床教授 総合内科担当
加島 雅之先生
(インタビュー日:2018年12月5日)

profile

2002年
宮崎医科大学(現 宮崎大学)卒業後、熊本大学総合診療部に入局。
熊本大学医学部附属病院、国立熊本病院(現 熊本医療センター)、熊本赤十字病院、沖縄県立中部病院にて研修を行う。
2004年
熊本赤十字病院に救急医として入職、その後、総合内科として現在に至る。

プライマリ・ケア連合学会認定医・指導医
日本内科学会総合内科専門医・指導医
日本東洋医学会認定漢方専門医

熊本赤十字病院 総合内科 部長、熊本大学医学部 臨床教授 漢方担当、宮崎大学医学部 臨床教授 総合内科担当 加島 雅之先生のインタビューを掲載いたします。
フレイルに対する漢方医学からのアプローチ法について語っていただきました。

インタビュー
「フレイルに対する漢方医学からのアプローチ」

 高齢化が加速するわが国では、平均寿命と健康寿命との乖離を少なくしていくことが克服すべき課題の1つとして挙げられています。近年、健康寿命の短縮には、後期高齢者の病態として多くみられるフレイルが影響するとの報告もあり、注目を集めています。
本日は、フレイルの病態やフレイルに対する漢方医学からのアプローチ法などについて伺いました。

[ インタビュー日:2018年12月5日 ]

フレイルの病態と、西洋医学と漢方医学とでの捉え方の違いについてお聞かせください。

 フレイルについては様々な概念が提唱されていますが、身体面からは、筋量低下、筋力低下(利き手握力:男性26kg未満、女性18未満)、身体機能低下(通常歩行速度1m/秒未満《測定区間の前後に1mの助走路を設け、測定区間5mの時間を計測する》)をきたす症候群と考えられます。また、身体的、精神心理的、社会的側面を含めて総合的に理解される概念と考えられます1)
 近年、フレイルが医学的に注目されるようになっているのは、心不全、がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、認知症、慢性腎臓病(CKD)などの多様な疾患がフレイルに集簇するという点です。これらの疾患に対してフレイルが合併している症例では、原疾患が急性増悪するリスクが高く、予後不良であるということが分かってきています1,2,3)
 また、フレイルに対する一般的なイメージは、やせ細っているというものですが、運動量の低下などにより老年期になって体重が増加することもあります。このような症例では、筋肉量が減少している反面、脂肪量が増加しているという状態にあります。サルコペニアは筋肉量が減少した状態を指しますが、筋肉量減少・脂肪量増加の例は、いわば「隠れサルコペニア」といった状態であり、体重減少を認めなくてもフレイルのリスクが高くなります。
 フレイルについて重要な点は、これまでの西洋医学では医学的な問題として十分認識されていなかったということです。従来、フレイルの概念の一部であるサルコペニアやロコモーティブシンドロームを単に身体的な問題として捉えてきましたが、高齢者は社会的、精神的な問題も多く抱えており、身体、社会、精神の3つの面を念頭に全体として捉える必要があるという観点からフレイルの概念が提唱されたわけです。しかし、西洋医学では概念そのものが新しいことや、臓器別のアプローチに重きを置いていることなどから、現状、フレイルの概念そのものが十分浸透しているとは言い難い側面があります。一方、漢方医学では、患者を全身の症状から捉えようとする伝統や虚弱性の概念が存在することから、フレイルに類似した病態がすでに認知されており、その治療方法が確立されてきたという歴史があります4)

フレイルに対する漢方医学からのアプローチについてお聞かせください。

 前述しましたように、西洋医学は臓器別に疾患を捉え、それに適応する薬剤の開発に注力してきました。一方、漢方医学は全身の症状や状態に注目し、症状を改善する漢方薬の創薬を進めてきました。
 漢方医学からみたフレイルは、体重減少は栄養状態の悪化を意味し、活動性や筋力の低下、倦怠感は活動エネルギーの低下を意味していると考えられます。漢方医学の歴史の中で、このような症状に対する複数の漢方薬が開発されてきました。その1つが人参養栄湯であり、フレイルやフレイルに伴う病態に対する有効性が期待できます5,6,7)
 人参養栄湯の現在の適応は、病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血となっています。ただし、漢方薬が医療用医薬品に分類されたのは昭和51年であり、一般薬として適応が定められたのは、それ以前の昭和30~40年代でした。当時の平均寿命は現在よりも10歳以上短く、フレイルのような病態が問題となることはほとんどなかったと思われます。そのため、フレイルに対する適応は明記されていませんが、病後の体力低下、貧血はフレイルを構成する因子であることから、フレイルへの適応もあると考えられ、実臨床における有効性も示されています(図1)8)。また、人参養栄湯には「養栄」という語が含まれていますが、「養栄」とは栄を養うという意味で、「血の中にあって、栄養を供給する働きを持つ」と解されます。すると全体の意味は「人参が含まれる栄を養う製剤」を意味することから、まさにフレイルに対応する漢方薬であることが、商品名称からも認識できます。

図1. 人参養栄湯のフレイル関連症状に対する有効性
人参養栄湯のフレイル関連症状に対する有効性

 人参養栄湯は、12の生薬から成る漢方薬であり、このうちのキードラッグは、人参と地黄の2生薬です。人参は、疲労、抑うつ、胃腸症状の改善が期待でき、地黄は、補精、強壮作用が期待できます(図2)6,9)。漢方医学的にみると、人参は気を補う代表生薬、地黄は血を補う代表生薬と考えられています。

図2. 人参養栄湯の構成生薬、有効成分とその作用
人参養栄湯の構成生薬、有効成分とその作用

 人参養栄湯には、多くの生薬が含まれているため、生薬同士の相互作用や副作用について懸念が生じるかもしれませんが、一般に漢方薬は、組成が単純な処方ほど速効性が得られやすい反面、副作用が発現しやすいと考えられています。逆に複雑な処方ほど効果発現は緩徐であるものの、副作用発現の懸念が低いと考えられています。歴史に残って頻用されてきた漢方薬は、副作用を最小限に抑えつつ効果を最大限に引き出せるという観点から類縁する処方の中で選択され残ってきたという背景があります。現在、わが国における医療用漢方製剤は148種類が存在していますが、江戸時代に編纂された処方集「古今方彙」には約1900の漢方薬が記載されています。また、東アジア最大の処方集といわれる韓国の「医方類聚」には数万処方の記載があります。このように膨大な処方の中から、現代まで使用され続けている漢方薬は、長い年月の中で選抜され洗練されてきた漢方薬であるといえるでしょう。

人参養栄湯の適応例と、類縁する漢方薬との使い分けについてお聞かせください。

 人参養栄湯が適応する患者像は、痩せ、息切れ、虚弱、癌悪液質、フレイルに通じるCOPD、外科手術に伴う体力の低下など、身体面からみても多彩です。これに加え、精神面からは認知機能低下、抑うつ症状があげられますが、精神面で注目されている症状に、「やる気のなさ」があります。この「やる気のなさ」の評価は難しく、動物実験を基礎として薬剤の開発が進められてきた西洋医学では、「やる気」を評価できるモデル動物の作成が困難なため、「やる気のなさ」そのものをターゲットとした薬剤は開発されていません。また、同様に、西洋医学の薬剤には、フレイルを構成する個々の症状に対応する薬剤は存在しますが、フレイルの多彩な症状のほとんどに対応できる薬剤は、現在のところ存在しないと考えてよいでしょう。こうした意味では、フレイルの治療は漢方薬の独壇場と考えられます。
 高齢者で「根気が続かない」、また抑うつ症状を呈する例で「やる気が出ない」という主訴は多く聞かれます。フレイルでも「やる気」「根気」の低下はよくみられる状態ですが、現代の精神医学でも「やる気の持続」を図ることは困難であるとされています。この点でも、人参養栄湯は「やる気の持続」が期待できる漢方薬として重要な位置づけにあると考えられます。
 人参養栄湯と類縁する漢方薬には、補中益気湯、八味地黄丸、加味帰脾湯、十全大補湯などがあります。
 補中益気湯は、体力低下、倦怠感に適応を持ち、心身の活動性に関与する「気」を補う漢方薬で、栄養状態に関与する「血」は補いません。八味地黄丸は、老年期の持続性のなさを改善する効果が期待できる漢方薬で、難治性うつ病に対して効果が得られるという報告があります10)。加味帰脾湯は、消化器症状と精神症状の改善が期待でき、食欲不振、下痢などの症状と不眠、不安、焦燥感などの虚弱性に伴う精神の不安定状態を対象として処方されます9)。十全大補湯は、人参養栄湯と類似の適応を持つ漢方薬ですが、人参養栄湯のほうが比較的消化器症状発現の懸念が低いと考えられます。
 一方、人参養栄湯は、前述の漢方薬に比べ中枢神経の賦活化効果がより強く期待できることから、意識を清明に保つことや、精神の活動性の維持、抗老化効果も期待できます11)

最後に、読者の先生方へのメッセージをお願いいたします。

 一般に、漢方薬は緩徐に効果を現し、速効性は期待できないと思われがちですが、レスポンダーでは速効性が期待できると考えられます。漢方薬の歴史的背景をみてもその根拠をうかがい知ることができます。漢方薬は長く王侯貴族の薬剤として重用され、効果発現が遅い場合には、処方した医師の地位や、時には命さえも危うくなったという逸話が存在します。そのため、歴史的に速効性を重視した開発に力が注がれてきたと考えられます。
 漢方薬を積極的に取り入れようとされる場合、細部にわたる特殊所見を見定めたうえでの処方が推奨されることもありますが、漢方薬では副作用やオーバードーズのリスクは、比較的低いと考えられます8)。こうしたことから漢方薬の好適応例である「虚弱」などに対し、反応を確認しながら臨床応用をされることも勧められます。

【参考文献】
  1. 荒井 秀典: 日本老年医学会雑誌 51; 497-501, 2014
  2. 加藤明彦: 日本透析医会雑誌 33; 341-343, 2018
  3. 山下寿ほか: 日本臨床救急医学会雑誌 21; 471-477, 2018
  4. 加島雅之: 日本心療内科学会誌 22; 20-24, 2018
  5. 加島雅之ほか: phil漢方 63; 3-8, 2017
  6. 宇都奈々美ほか: 臨牀消化器内科 33; 1377-1385, 2018
  7. 岡原一徳: Prog Med 37; 159-164, 2017
  8. 鈴木伸一ほか: 医学と薬学 74; 1285-1297, 2017
  9. 緒方千秋ほか: 漢方医学, じほう, 東京, 2018
  10. 山田和夫: 漢方と最新治療 19; 183-188, 2010
  11. 鮫島奈々美ほか: アンチ・エイジング医学 13; 796-804, 2018

臨床研究報告

  • 第58回 日本老年医学会学術集会 ランチョンセミナー フレイルと人参養栄湯
    第58回 日本老年医学会学術集会 ランチョンセミナー
    フレイルと人参養栄湯

    乾 明夫 先生
    鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心身内科学分野

    品番:
    GR-122
    サイズ:
    A4 8P
    作成年月:
    2016年9月
    PDF 3.3MB

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