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臨床医師へのインタビュー人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)

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インタビュー

乾 明夫 先生

鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科
心身内科学分野 教授
フレイル漢方薬理研究会 代表世話人
乾 明夫 先生
(インタビュー日:2017年1月25日)

profile

1978年 3月
神戸大学医学部卒業
1978年 6月
神戸大学医学部附属病院勤務
2000年 1月
神戸大学医学部助教授
2005年 1月
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 社会・行動医学講座 行動医学分野(現心身内科学分野)教授
2012年 7月
鹿児島大学病院 漢方診療センター長

日本内科学会指導医・認定医
日本心療内科学会専門医
日本消化器病学会指導医・専門医
日本内分泌学会指導医・専門医
日本老年病学会指導医
日本臨床薬理学会指導医
日本肥満学会専門医

鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心身内科学分野 乾教授のインタビューを掲載いたします。
フレイルに対する人参養栄湯の有用性について語っていただきました。

インタビュー
「フレイルに対する漢方薬の有用性」

 超高齢化社会が進む中、後期高齢者の病態として“フレイル”やその原因であるサルコペニアが注目されています。多成分系を特徴とする漢方は、多臓器の機能低下に起因するフレイルの良い適応と考えられています。本日はこのフレイルの病態の特徴とともに、人参養栄湯の有用性について伺いました。

[ インタビュー日:2017年1月25日 ]

近年、高齢者の病態としてフレイルが注目されていますが、その病態について教えていただけますか?

 「フレイル」とは、高齢期に生理的予備能が低下することにより、ストレスに対する脆弱性が亢進し、機能障害や要介護状態、死亡などに陥りやすい状態を指します。ただ、介護の危険度が高いものの、自立生活を送れる状態であり、適切な対策を講じることで、再び健康な状態に戻れる状態です。2014年に日本老年医学会からフレイルに関するステートメントが発表されて以来、介護予防のキーワードとして注目を集めています。
 フレイルは「虚弱」「脆弱」などを意味する「Frailty」が語源であり、患者像としては足腰の筋力が低下し、疲れやすい、やる気が出ない、食欲がないなどの症状がみられる状態です。多くの場合、フレイルという段階を経て寝たきりなどの要介護状態へ進むと考えられます。
 また、骨格筋萎縮(サルコペニア)による「身体的フレイル」だけでなく、認知機能障害やうつから起きる「精神・心理的フレイル」、歯や口の衰えから起きる「オーラルフレイル」、独居や閉じこもりを背景にした「社会的フレイル」などの要素も含まれており、高齢者の心身の虚弱を多面的に表した概念といえます。超高齢化社会が進展する中、病態生理のみならず、診断から介護予防における観点でも、その重要性が注目されています。

高齢期にみられる病態ということですが、好発年齢についてお聞かせください。

 フレイルは60歳代後半から認められ、高齢になるほど頻度が高くなります。65~69歳で5%強、70歳代後半の75~79歳で20%弱。80歳以上になると35%近くになるという調査結果が出ており、75歳から一気に増加するという傾向があります。1)

図1.

高齢者は複数の疾患を併発することが多いと思われますが、フレイルと疾患の関連性についてお聞かせください。

 フレイルは多くの疾患と相関していることも特徴です。特に糖尿病は、網膜症、腎症、末梢神経障害など、さまざまな合併症を引き起こすため、日常生活動作(ADL)への影響が大きく、比較的早期にフレイルに至らしめる可能性があります。骨粗鬆症や運動器不安定症(MADS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)なども、フレイルを招く大きな要因となります。
 骨格筋萎縮をきたし、筋力や身体機能が低下するサルコぺニアとは相関関係が深く、疾患と結びつきながらフレイルが進行します。認知症は、初期段階は比較的運動機能が高まりますが、進行するにつれADLが低下し骨格筋萎縮が進みます。また、うつ状態が悪化し、行動の不活性化や閉じこもりが続けば、同様の事態を招くこととなります。不安や抑うつ気分を有する心身症も、骨格筋萎縮の要因の一つといえます。
 食欲不振や痩せを主徴とする悪液質は、がんや慢性肺疾患、心不全、炎症性腸疾患など多くの基礎疾患に合併します。サルコペニア、悪液質、フレイルは重なり合う病態といえますが、疾患としては悪液質の診断と治療が重要であり、サルコペニアはその前駆病態として位置づけられています。

フレイルと関連性がある疾患
●糖尿病 ●骨粗鬆症 ●運動器不安定症(MADS) ●認知症 ●うつ
●慢性腎臓病 ●慢性閉塞性肺疾患(COPD)

フレイルの診断基準についてお聞かせください。

 Friedらは、フレイルを①体重減少、②疲労感、③活動度の低下、④身体機能の減弱(歩行速度の低下)、⑤筋力の低下(握力の低下)のうち3項目を満たすものと定義しています2)

 また、国際悪液質学会では、フレイルを以下のように定義づけています。

(簡易FRAILスケール)
疲労 疲れやすいですか?
レジスタンス運動 階段を一気に登ることができますか?
有酸素運動 1ブロック休まずに歩けますか?
疾患の集簇  持病が5つ以上ありますか?
体重減少   過去半年で5%以上の体重減少がありましたか?

 上記5項目のうち3つ以上を満たすものをフレイル、1~2項目の場合はプレフレイルと診断します3)

フレイルに対してどのような医療が行われるのでしょうか?

 フレイルは心身の脆弱性を特徴とするため、患者さんの体重減少及び身体機能障害を心身の両面から検討し、包括的な医療を行います。メタボリックシンドロームと同様、医師・看護師・栄養士・薬剤師・ソーシャルワーカー・臨床心理士などのチーム医療が必要となります。また、医療機関での診療の枠を超え、地域自治体、介護施設など、より広範な連携を進めていくことも大切です。患者さんやご家族と十分なコミュニケーションをはかりながら、限られた医療資源を有効に活用していく、それぞれの地域の実情に合わせた取り組みが必要となります。

筋力や身体機能が低下するサルコぺニアと関係性が深いということですが、運動や食事、生活の面で留意することはございますか?
  1. ・運動について
     フレイルの中核的な症状であるサルコペニアは筋力低下が顕著となり、特に下肢筋力の低下は転倒・骨折の重要な危険因子となります。サルコペニアに伴う機能低下や障害を予防・改善するためには、筋力トレーニングがもっとも有効とされており、高齢期においても効果的な筋力トレーニングを行うことが重要です。高齢者を対象に行われるフレイル予防を目的とした運動療法は、有酸素運動、筋力トレーニング、バランストレーニング、ストレッチなどを中心に、これらを複合したプログラムが組まれます。
     また、運動により筋量や骨格筋機能が増えると、趣味を始め色々なところに出向くようになり活動性が向上します。人と会う機会も増え、精神面にも良い効果をもたらします。戸外での運動は日光浴も兼ね、骨の健康という点でも有用です。集団での運動は、孤立を防ぎ抑うつや認知機能障害の防止にも効果が期待できます。
  2. ・食事について
     加齢とともに胃腸機能が減弱し、食事量・食欲が低下すると慢性的な低栄養状態となり、サルコペニアが進行し、フレイルに陥る可能性が高くなります。栄養素のバランスに注意した食事を心がけ、体力の低下や疾病の発症を予防することが大切です。
     体重減少が進行する時期には、少量でエネルギー価の高い食事を中心にする必要があります。腎機能障害を有する場合は除外しますが、高タンパク食の摂取も勧められています。魚油に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)は、炎症や骨格筋の分解抑制をもたらします。必須アミノ酸や分岐鎖アミノ酸(BCAA)も筋組織の保持や筋力増加に効果があるといわれています。
  3. ・社会活動について
     趣味のサークル活動、町内会やボランティア活動など、積極的に地域社会にかかわる活動がフレイル予防に効果的です。社会の一員としての居場所があること、そこで生まれる人との交流は、とてもよい刺激となり、心身の健康に大きな役割を果たします。
先生はこの「フレイル」の薬物治療において人参養栄湯をよく使用されるとのことですが、その理由をお聞かせください。

 近年、漢方の再評価が広く行われ、エビデンスに基づく漢方処方も模索されています。これは西洋医学では手の届きにくい疾患や領域があるためです。代表的な補剤である人参養栄湯は、主に「疲労倦怠感」「病後の体力低下」「疲労からくる食欲不振」「貧血や冷え症」に用いられます。
 人参養栄湯は体力を補う補剤の王と称されている「人参」を中心に、芍薬、当帰、陳皮、黄耆、桂皮、白朮、甘草、地黄、五味子、茯苓、遠志の12種類の生薬から構成されています。人参は古来より滋養強壮作用、食欲不振の改善効果があるとされ、さらに抗疲労作用があることも研究で確認されています4)(図2)。また、人参由来のサポニンは、情動行動の改善5)、神経細胞保護作用6)、動脈硬化改善7)、骨密度改善作用8)があることも知られています。陳皮は、食欲増進ホルモンであるグレリン分泌促進作用9)や神経細胞保護作用10)、抗不安作用11)、また遠志は、高齢者における認知機能改善作用12)が報告されており、近年注目されています。黄耆のアディポネクチン増加作用13)や白朮のミトコンドリア機能改善作用14)など、このほかの生薬にも様々な薬理作用があることがわかってきており、さらなる研究が進められています。
 これらの生薬が互いに作用しながら、フレイルに特徴的な身体機能や心身の脆弱性(免疫・情動・認知など)を総合的に改善させると考えられます。多彩な作用を有する人参養栄湯をうまく使うことで、ポリファーマシーを避けうることも重要であると考えています。

図2.

最後に、超高齢社会を迎えたわが国において、漢方に対する期待をお聞かせください。

 現在、わが国において平均寿命と健康寿命の差は男性で約9年、女性で約13年といわれており、フレイルの予防、加療による健康寿命の延長は喫緊の課題となっています。その延長に医療者が介入する意義は極めて大きいといえるでしょう。
 フレイルカスケードもしくはサイクルとして知られる悪循環を、身体と精神機能の両面から遮断する方法として漢方薬は有用といえます。作用機構の解明は、緒についたばかりですが、超高齢社会を迎え、疾患構造そのものが変貌しつつある中、私たち医師は漢方薬の有用性をもっと前向きに捉えていくべきだと思います。漢方薬を高齢者に臨床応用することで、その良さを実感できますし、臨床の幅も広がります。西洋薬と漢方薬の互いの良さを活かしながら医療を展開していく―。それが時代の要請でもあると考えています。

【参考文献】
  1. 鈴木隆雄: 日老医誌. 52; 329-335, 2015)
  2. 葛谷雅文: フレイルティ: オーバービューと栄養との関連, 日本老年医学会雑誌. 51; 120-122, 2014
  3. Morley JE, et al.: From sarcopenia to frailty: a road less traveled, J Cachexia Sarcopenia Muscle. 5; 5-8, 2014
  4. 日本薬学会129年会, 2009
  5. 安達浩司ほか: 補完代替医療学会, 2005
  6. Zhang G, et al.: J Ethnopharmacol. 115; 441-448, 2008
  7. Li J, et al.: Eur J Pharmacol. 652; 104-110, 2011
  8. Huang Q, et al.: Bone. 66; 306-314, 2014
  9. 武田宏司: 産婦人科研究漢方のあゆみ. 25; 19-26, 2007
  10. 渡部晋平ほか: phil漢方. 41; 28-29, 2013
  11. 伊東彩ほか: phil漢方. 46; 26-28, 2014
  12. Ki Young S, et al.: Neurosci Lett 454; 111-114, 2009 & 465:157-159, 2009
  13. Aimin Xu, et al.: Endocrinology 150; 625-633, 2009
  14. 福永浩司: phil漢方. 60; 32-33, 2016

臨床研究報告

  • 第58回 日本老年医学会学術集会 ランチョンセミナー フレイルと人参養栄湯
    第58回 日本老年医学会学術集会 ランチョンセミナー
    フレイルと人参養栄湯

    乾 明夫 先生
    鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心身内科学分野

    品番:
    GR-122
    サイズ:
    A4 8P
    作成年月:
    2016年9月
    PDF 3.3MB

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